今日はキョンくんのお友だちがたくさんお泊まりにきました。キョンくんはあたしのおにいちゃんです。高校生です。キョンくんの部屋は、あまり広くないのでみんなが入るとぎゅうぎゅうでした。つるやさんがたくさん食べるものと、のむものを持ってきてくれたので、あたしは夜ごはんを食べたあとだったのにまたたくさん食べてしまいました。おいしかったです。つるやさんというのは、キョンくんのお友だちです。お友だちだけど、キョンくんより年が上です。みくるちゃんと同じ年です。みくるちゃんというのは、キョンくんのお友だちです。かみの毛がとてもふわふわで、おかしみたいなにおいがします。つるやさんとみくるちゃんはお友だちなので、つるやさんがみくるちゃんをぎゅうってすると、みくるちゃんはころがってしまいます。とても楽しそうなので、あたしもこんどつるやさんにぎゅうってしてもらおうと思いました。キョンくんはお友だちがたくさんいるので、まだまだいます。ゆきちゃんは、うさぎさんの形をした、耳につけるのをしてました。とてもあたたかそうでした。でもキョンくんのお部屋はあったかいので、暑くないの、と聞いたらかしてくれました。ふわふわでした。ゆきちゃんはとても真けんにご本を読んでいて、頭がいいです。読めない漢字がたくさんありました。ゆきちゃんがご本を読んでじっとしているときは、楽しいときだってキョンくんが言っていたのでゆきちゃんはとても楽しそうでした。古泉くん、というのはこういう字を書くって今古泉くんに教えてもらいました。古泉くんも頭がいいです。いつもにこにこしていて、あたしと遊んでくれます。キョンくんは、あたしと古泉くんがゲームをしているといつも後ろをうろうろします。いっしょに遊びたいけど、仲良しのお友だちのところに入るのはどきどきすることがあるので、キョンくんもそうなのかなあと思いました。男の子はむずかしいそうです。いつもいちばん楽しそうなのは、ハルにゃんです。ハルにゃんはキョンくんのお友だちです。ハルにゃんとキョンくんとゆきちゃんと古泉くんは同じ年です。ハルにゃんは苦いものをのんでいました。でもそれは二人のひみつです。これは世界をゆるがすかもしれないのです。古泉くんが言っていたので、これは三人のひみつです。つるやさんの持っていたカメラを高いところにおいて、写真をとりました。今日の絵日記は、絵じゃなくてこの写真をはります。あたしが持っているのはハルにゃんが、妹ちゃんはこれでかんぱいしなさい、と言ってわたしてくれたコップです。ハルにゃんがいすの上に乗ったので、キョンくんはしんぱいそうにしていました。みんなでいっしょにいるのは楽しいです。キョンくんはもっとお友だちを呼んでください。もうねむいのでねます。

 と、書かれた絵日記が、何故か俺の部屋に置いてある。読むのに疲れる平仮名の多さだが、小学五年生の時点で自分がどれだけの漢字を習得していたかなど既に記憶の彼方であり、彼女の行く末を心配するには材料が少々足らんな。しかしどうしてこれがここにあるのか、悩むまでもない、俺がいないあいだに妹がここで日記を書いていただけの話だ。まったく勝手に入るなとあれだけ言っているのに懲りないやつだ。この写真だって、つい昨日鶴屋さんから手渡されたものであり、妹ちゃんの分も、と当然手元には二枚あったわけだったが、まあ後で渡せばいいかと机に置いておいたものが既に貼付けられている。はさみのみならずのりまで。こういうところだけ変に知恵がついていくのはどうしたもんかね。ぱら、と何とはなしに他のページをめくれば、多くて三行、短いものは一言で済まされている日もあった。飽き性なところは似てくれなくてもよかったのだが、それは俺ではなく両親の段階でどうにかしてもらわんとならないところだ。とにかく、これだけ(一ページには到底おさまらず右ページにまでこの思い出日記は続き、右ページの本来絵を描くはずの部分まで潰している)楽しかったってことだろう。それはまあ、いいことだ。ハルヒが爆発しそうな太陽みたいに笑っていたり、朝比奈さんがご自分の思う通りにお茶をいれていたり、長門がじっと本を読むことが出来たり、鶴屋さんが美味しいものを美味しそうに食べていたり、古泉が、いつものように笑っていたりしないことと、同じように。それはとてもいいことだった。
「けれども妹さんは、僕の笑顔が好きだと言ってくださいます」
 うるせえ、あれから三日連続で家に押し掛けてきてるお前が言うな。ていうか、待て、この日記よく読んでみればお前が漢字を教えたことになってるじゃないか。どういうことだ、お前今日はずっと俺といっしょにいただろう、いつだ、いつなんだお前が妹とふたりでこれを書いたのは。
「さあ、それは僕と妹さんの秘密ですので、いくらお兄さんといえど、」
 ひょい、と肩を竦めて手の平を上に向けるという、何ともむかつくポージングを中断させるように羽交い締めてやれば、彼は妹と同じような顔で、けらけらと笑った。







20081101