さて、ここにあるのは十円玉三枚です、外国のコイン使うとさあちょっと信憑性が薄くなるじゃない俺別にあっちで修行とかしてないし師匠がいるわけでもないしさ、というわけで今日は君のお財布から拝借したわけね、平気だよちゃんと後で返すから何も一万円札借りて破って元に戻すとかするわけじゃないんだから心配しないで、ってあれそんなこと言ってるあいだに消えちゃった十円玉、えーどうしよっかこの三十円なかったら昼休みジュース買えなくなっちゃうよねうーんどうしよっか、なんて言ってるあいだにほら、手開いて、全部君の手の中にあるんだ、あーよかったね、それで俺の分のジュースもよろしくね?

「え、え、何今の!すげーな千石!」
 教室中に響く程の声でぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるのは珍しくも南だ。もう何度見せたかわからないこの手品に飽きること無く感嘆の声を上げ立ち上がり手を叩く。借りた三十円はいつもおひねりだとかなんだとかで結局俺の手に戻ってくるわけなんだけど、俺は使わず大事に取ってある。もうすぐアルバムが買えるかも知れないなと思いつつ数えてみたことは無い。
「もっかい!もっかいやってくれよ!」
 興奮気味の南が机に両腕をついて顔を近付けてきてちっちゃい子みたいにきらきらしてくれるのは構わないんだけど、問題はちょっとずれたところにある。こんな手品ならいくらでもやってあげるよ君がにこにこと笑うなら、ただ、
「いいなあ、俺にもそんな力があったらいいのに」
 俺のこのタネも仕掛けもありまくりな手品を、彼は超能力か何かの類いだと思っていることが、困りはしないけどどうも気恥ずかしくて。まあテニス部のやつらに南が俺のすごさを伝えたところでアッサリと流されるのがオチなわけだが、東方のように何て説明してやったらいいのか、みたいに苦笑するのを見ると俺の所為だよなあぐらいには思うのだ。
「まだ時間あるからほら、もっかい!」
 そう言って財布からまた三十円。南は、やり方を教えてくれとも言わないし、タネを知りたがることもない。けれど休み時間ごとに何かやってくれと言うのでそれはまれに部活後であったりもするので、俺は常にネタを仕込むのに余念が無い。ちょっと大変だけどそれも彼を喜ばせる為の準備なら。
「いいよー、じゃあ次はどこに増やしちゃおうか、四十円に」
「まじで!そんなことまで出来んのか!」
 がたんっと机を揺らし目を輝かせる南。教室中はくすくすと笑い出す。俺はこの時間が好きで好きで仕方が無い。次は鳩を出してやろうかと考える程だ。
 だから、中学生のあいだはこのままでいいかなって、超能力者でないと明かさない俺はずるい。





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20050827