とんとん、とんとん、と規則的なリズムを繰り返す南の人差し指。吸っている途中で、ふいに他へ気が逸れたとき、まだ灰になっていない部分までも落としてしまいそうな程それこそ本当にリズムを刻むように、灰皿のふちに軽く叩き付けられる白く細く長い煙草。それを支える長く少し節くれ立ったかっこうのよい彼の指。
「南、あんまりやると火種まで落ちちゃうよ」
 部屋にいっしょにいて、煙草を吸う南の気がどこかへ逸れてしまうこと自体は不快では無い。とても自然で、そうする彼はいつもより凛々しく見えるくらいだ。おかしな話だよね、ぼうっとしているから余所見をしているのに、それがかっこいいだなんて。俺は南程煙草に興味は無くて、だけれども彼が喫煙しているのは少しだけいつもの彼でないようで面白くて、好きだ。
「え、ああ、うん、わかってる」
 とんとん、とんとん、続くリズムの中で、彼は何を考えているのだろう。手元には明日の会議の資料、今度の仕事で南はちょっと重要なポジションに付いたから、いろいろあるんだろうな。部署が違うことを残念だと思うのはこういうときだ。彼の視線の先を追おうとすると、俺の行動を見ているのか先へたどりつく度に他へ逸れる。見ているはずは無いのになだって南は今余所事中だもの。何もないところを目で追い掛ける猫のように、俺たちはひとつの部屋の中できょろきょろとした。
「みなみ、ね、煙草一本ちょうだいよ」
 とんとん、とん、俺の声で、リズムが崩れて、南の視線の先がこちらに着く。どきりとした。気が逸れているはずの南の気が、こちらにきたのだ。
「だめだ」
 最後のとんっ、で、可哀想に落ちていく真っ赤な火種。殆ど吸われること無く短くなってしまった煙草のことを思うとちょっぴり切なくなった。
「今、お前を禁煙させる方法を考えていたんだから」
 それは何と言うか、大概矛盾があるような気がするけれどどうかな。南の吐いた副流煙を大きく吸い込み肺に入れながら、俺は大声で笑った。変なものを見るような目で、南は煙草に火を着け直して吸い続ける。だって君、余所事してる振りして、俺のこと、考えていたんでしょう?





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喫煙南そのに
20051123