午前三時に家を出る。
ちょうどに出ないのは家族を起こさないように。
薄明かりの台所には朝のちょっとしたごちそうの準備。
顔がにやけるのは堪えないだって真っ暗だ。
これを習慣にしたのは小学校三年生のとき。
理由は忘れた俺はもう中学校三年生だから忘れてしまった。
玄関のドアを音を立てないようにするのにどきどきして。
財布から出した二百円だけ握ってマフラーで顔を覆う。
そのあいだから抜ける白い息を目で追ってまばたき。
家から一番近い自販機であったかいコーンスープの缶を買う。
値段がちょっと高くなったけどラインナップは変わらない。
なにもかわらないかわらないおれはおれだってこれで。
これ、小学校を卒業するまではバレなかったんだ。
中学校の一年目で親に見付かって儀式だって言い張った。
そのときにこにこと笑っていた母親の顔が大好きだ。
中学校の二年目で南にバレてどうしてかひどくしかられた。
んで、今日は中学校の三年目、南から電話がかかってきた。

千石やっぱり今年もやってんのか寒いだろ早く帰れよ
誕生日おめでとう明日、じゃねえや今日、朝練来いよ

ちょっとちょっともう切るのさすがにそれはないでしょう。
そう言ったら家に帰るまで付き合ってくれたありがとう。
別に意味なんてないんだきっとない、けれど落ち着かないんだ。
だって今日は俺の誕生日でしょう。朝にはごちそうでしょう。
みんなのおめでとうでしんでしまうまえにじぶんでいうために。
そこに南が勝手に入ってきちゃったんだなあ、親だって遠慮したよ?
ねえ、来年は、いっしょに午前三時、おでかけしませんか。