見える、という単語はそう簡単なものではないって知ってるしそれが千差万別でありとても個人によるものだということも理解してる、例えば俺が動態視力に優れているように特化した能力というものも有り得るわけで、それは勿論全ての人に与えられたものではない。努力すれば得られるものでもない場合があるし、そうでないケースもある。けれども、だ。視覚に関わらない、見える、はまず化学でも医学でも証明する手段が無いわけで、一概にああそうなんだそれは俺には無い能力だすごいね、と口を滑らせるわけにはいかないんだ。いくら俺が普段から軽口を叩く部類であったとしてもね。


「あ、」
 南が、あらぬところを見て間抜けに口を半開きにしふわりと指をそちらに向けるとき。俺はなるべくそちらを見ることの無いようにする。いるわけがないと言い聞かせてしまう時点で半ばその存在を認めているようなものだ。
「だから南、俺には見えないんだって…」
 目を逸らしたまま、右手と左手を行き場無くもたもたと遊ばせながら、俺は歩調を速める。これだから近道は嫌いだ。部活後、薄暗い夕方、南が電車を使う場合駅までの近道だと彼が好んで通る神社を抜ける道。風も無いのにざわざわと木々が揺れ擦れる音が空気を支配していて、それによって作られた影はひどく濃い。薄暗い空すら見えない、南がどうしてここを通りたがるのかはもう知っている、だからこそ俺は嫌なのだ。しかしそれを彼に伝えることは何かに負けたようでしたくない。
「何でだよ、そこにいるのに」
「ああ、南、いる、って言わないで…」
 去年の夏、心霊特番を怯えながら見て俺の手をずっと握っていた南を思い出すたびに騙された詐欺だと思う。あんなに可愛かった南が嘘だったというのか。いやそれは違うんだ、心霊、要するに幽霊と、
「お狐さんだぜ?お前に少し似てるよ」
 今彼が優しく笑いながら示すそれは違うのだ。違うらしいのだ。
「似てるって言われてもさあ」
「ふわふわしてんだぜ、お前の髪触ったとき思い出すんだ」
「ちょ、そんなの連想しないでよ!つーか触ったことあんの?!触れるもんなの?!!」
「当たり前じゃないか何言ってんだ……あ、」
「もういいよ…!」
 南健太郎にとって、視覚に加え触覚を伴うものは現実だ。俺が違うといってもそれは変わらない。ちくしょうレンタルビデオ屋で心霊ものの映画を軒並み借り切って鑑賞会をしてやる!今日は帰さないぜ南!元々お泊り予定だったのに更にくだらない予定を立てて、俺は南の手を掴んで走り出した。正確に言えば一刻も早く立ち去る為に走り抜けた。多分お狐さんに手を振り別れの挨拶をしている彼は、見ないふり!




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高助さんが楽しいものを提案してくれたので考察ついでに殴り書き
20050723