衝動というものがいつどこで自分の身に降り掛かるなど予想が付くわけがないだってそれは衝動と言う名がついていて衝動というものは善悪などを考えず無意識に何かをしたくなる心の動きの意なのだから。なんて大概いい加減なことを並べてみても結局は目の前に千石がいるという事実そのものが原因なのだから仕方がない仕方がないとか言ってしまっている俺が最も手に負えない。
「え、ちょっ、ここですんの?」
 自分でスカートをめくって見せていたくせに俺が座っていた椅子から立ち上がると同時にそんな漫画のように薄っぺらい抗議の台詞を口にする。しかし言っているその表情に羞恥や嫌悪のようなものは微塵も含まれていない俺の行動を促す為にそうしていたとしか思えないのだからそれも当然か。
「お前がしないっていうならしない」
「南くんは相変わらず人任せが大好きだなあ」
「ひどい言いようだな千石」
「なに、なんか機嫌悪いの?」
「………別に、悪くねえよ、平気だ」
「そんな、捌け口みたいにされるのは嫌なんだけど」
「なんていうか、お前も、察しろよ」
 会議用の大きな机を挟んで対角線、教室の隅でスカートをひるがえし先程までくるくると器用に回っていた千石に足を速めて一気に近付く、ここは生徒会室だ。綬業の終わった放課後、文化祭の準備で残る三年、のうちの二人。どうしてか千石は今期の生徒会長なので俺がここにいるのも当然の話だと学校の連中は認識している、それが全く見当違いであることを彼らは知らないけれどまあ、この現状に不満があるわけではないから。苦笑して俯く俺を見てどうやらようやく千石はなにか気付いたようだったけど、にこりと笑った後にスカートを持ち上げていた手を離した。
「なあに?南くんもスカート触りたい?」
「なっ、今の流れじゃそういう話にはなんないだろっ」
「えー、なんで?スカートめくりとかしなかった?小学生のとき」
「しねえよ!お前といっしょにするな!」
「おかしいな、前に東方と話したとき男の子が一度は通る道だってことで決着がついたんだけどなあ、なんで?楽しいじゃん、スカートめくり」
 バレリーナのように片足を上げてくるりと回る千石を少々乱暴に止める。回転の勢いを残してよろけた彼は予想外、というようなきょとんとした表情で俺を見た。そんなくるくるまわるななかがみえてるっつーの。止めたのは俺の左手で、掴んだ千石の右手首が今まで考えていたものより遥かに細く(それはもしかしたら錯覚だったのかも知れないがとにかく)(スカートめくりの話を千石としていた東方のことも取り敢えず置いておいて)その手を壁に押し付けた俺の右手は飾り程度でしかない窓を覆うカーテンを閉めた。
「みなみ、顔真っ赤」
「うるさいなあ」
「手、離してって言ったら離す?」
「お前が、離せって、言うなら」
「ほらまたあ、そういうこと言う」
 手の力を緩めると、千石はそこからするりと抜け出して俺の肩を強く押し返したてっきりその腕は俺の身体に絡んでくるものだと思っていてその思っていたということがひどく恥ずかしくて俺はまた俯いた。
「だめ、南、だめだよちゃんと顔を上げて」
「………え、なに」
「ちゃんと見て、俺を、ちゃんと」
 ぐっと肩を揺らされて思わず顔を上げると泣いているような声を出したはずの千石は笑っていた。それがあまりにも普段と変わらない笑い方で、それがとても信じられなかったというかこういう場面で千石がそうやって笑ったことなど一度もなかったはずなのだ。いつも俺を誘うように笑って、そのあとはひどいものだ。
 見ろ、といわれた彼自身は文化祭の企画で着るとかで借りてきたセーラー服を着用している。どこにでもあるような上下紺のセーラー服。言われた通りに頭の先から爪先まで(用意周到に黒のニーソックスまで穿いている)視線を動かしてやると突然ばっと肩にあった手が離れて頭を引き寄せられた。
「ごめん、やっぱ、いいや、見なくていい」
「わけわかんねえよ」
「あははは、いいよ、南が興奮するなら何でもいい」
「っ、お前なあ、そういうこと言うなよ」
「何でも人任せな南くんよりよっぽどいいですよ」
 頭を包むように千石の手が回って、俺ももうバレているのならそれでいいと思って身体を押し付ける。スカートの中に手を入れて、ニーソックスが途切れた上、素肌をなぞると千石はいつものようなひどくなる一歩手前の、世辞にも色っぽいとは言えない掠れた声を上げた。それでもそれは俺に衝動というものを降り掛けるのに充分だ決して伝えはしないけれどそう思っていることは事実。衝動、善悪を考えずに、無意識に、何かをしたくなる、心の動き、よく出来た言葉だ。大概いい加減なことを考えて俺は真っ赤なスカーフを引き抜いた。






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とても初期に書いたナンゴク、当時のオフ本設定そのまま
20041204