大会が近づくと、練習の時間がのびるのか、窓の外からは遅くまで、野球部員たちが必死に叫ぶ声が聞こえる。大会の時期を知っているわけではなく、それは人から聞いた情報であったがともかく、野球部の大会というのは非公式なものも含めると頻繁に行われるらしい。山本が帰りに僕のところへやってくるのは、いつも練習が遅くなったときだった。
 すっかり汗のひいた、つい先程までグラウンドを走り回っていたとは思えない、至極何でもなさそうな顔をして、彼は言う。
「ヒバリは、愉しそうでいいな」
「…それは皮肉か」
「いや?」
 何の感情も窺えない表情を晒して(あまつさえ僕の目を見据えて)山本は善とも悪ともとれない顔で笑った。気に障る、と思う。
「言わせて貰えば」
「どーぞ」
「どうしてお前は、何も見ようとしない」
「ははっ」
 愉しそうに、笑う。気味が悪いのは、彼が今しか生きていないことと、本人もそれをわかっていることと、そんな彼に口を挟む自分。転がっていたソファから起き上がる彼の横顔を茜色の夕日が照らす。幼さの残る表情が、座りの悪さを一層引き立たせた。
「じゃあ、帰る」
「帰れ」
 何をしに来た、と聞くのは無粋な真似だ。理解は出来ない、するべきではない。

 ぱんッ、と閉まる扉。二度と彼がそれを開くことがなければいいと、思うのは。

「最悪だ」
 傍に置けば、見てしまう、彼の目が、何を見るのか。他人に興味を持つ自分を考えると、身体が冷えた。
 触れてはいけない、例えこれから山本という男がどんなに強くなろうとも。

 野球部の大会などなくなればいい、本気で願う自分が可笑しかった。紺色に近づく空で、星が目立ちだす。






20050513